1 はじめに
エネルギー業界におけるM&A件数は増加傾向にあり、2024年上半期には電力会社やガス会社が売主又は買主となったM&Aの件数が49件に達するとともに、前年同期比で26%増という伸びを記録しました。[1]
また、規模の面でも2022年にENEOS株式会社がジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社の全株式を約2,000億円で取得したケースや[2]、2023年に株式会社JERAが子会社を通じてベルギーの大手洋上風力発電事業者であるParkwind NVの全株式を約2,200億円で取得したケース[3]など、脱炭素に向けた動きの中で、大規模なM&Aもみられるようになっています。
再エネ発電事業に関連するM&Aにおける法務デューデリジェンス(以下、「法務DD」といいます。)の調査・検討対象は、不動産関係(事業用地の使用権原の確保等)、プロジェクト関連契約(EPC契約やO&M契約等)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(以下、「再エネ特措法」といいます。)に基づくFIT/FIP認定の内容、金融機関との間の既存ファイナンス契約、許認可、紛争など、多岐に渡ります。
特に、発電事業の用に供する不動産は発電事業の根幹となる資産・権利であり、不動産関係のデューデリジェンスは重要な位置付けにあります。
例えば、事業用地の使用権原に瑕疵が存在することが法務DDの過程で発覚した場合、発電事業の継続可能性そのものにも影響を与えかねず、取引価格や投資判断を揺るがすポイント(いわゆるレッドフラッグ)となり得ます。
また、M&Aのクロージング後も、土地利用権の存続期間や更新条件、FIT/FIP認定との整合性、担保権等の負担といった点に関連してトラブルや紛争が生じる事例は少なくありません。
そこで、本稿では、FIT/FIP制度に基づき太陽光発電事業を行う発電事業者の株式(持分)を譲渡対象とする取引を例に、再エネM&Aにおける不動産分野の法務DDで確認すべき事項及び法務DDで検出された事項に係る株式譲渡契約(以下、「SPA」といいます。)での対応策についてご説明します。
[1] 電力・ガスM&A数最高 再生エネの取得鮮明 日本経済新聞.2024-09-03,朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO83188180S4A900C2DTA000/
[2] 当社子会社によるジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社の株式取得(連結子会社の異動を伴う孫会社化)に関するお知らせ
https://www.hd.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20211011_01_01_0960492.pdf
[3] ベルギーの大手洋上風力発電事業者Parkwind社の買収について